ひとしきり踊って、フロアの端のテーブルで休んでいると、二人連れの男が声をかけてきた。
「よく来るの?」
「ときどき」
「君、すごいカッコよかったよ」
「ありがとう」
こういう場所では声が聞こえにくいので、短い単語だけで会話が成り立つもののようだ。
「これからさ、僕らと一緒に遊ぼうよ」
背の高い茶髪の男が美奈の肩を抱いて、連れて行こうとする。もう一人のニット帽を被(かぶ)った男が私に近づいて、
「ね、いいところ知ってるから」
と耳元で話しかけてきた。
(え? これって、ナンパ? 私たちどうなっちゃうの?)
急に怖くなって、足が震えてきた。美奈と男は、どんどん歩いて、店の外に出て行ってしまう。
「美奈ちゃん、待ってよ! 美奈ー!!」
大声で呼んでも聞こえないのか、美奈は振り返りもしない。
「いやー、離して!!」
私はニット帽男の手を振り払って、必死で美奈を追いかけた。
店の外で、ようやく二人に追いついた私は、美奈の肩を馴(な)れ馴れしく抱いた茶髪の男と美奈の間に割り込んだ。
「すいません、この子を離してください」
「なんだよ、こいつがいいって言ってるんじゃん」
「困ります。私、この子を送らなきゃいけないんです」
「うるせーな。おまえは俺の連れと楽しめばいいじゃん。ほっといてくれよ」
茶髪の男が握り拳(こぶし)を作ったのが見えた。
(殴られる!)
思わず目をつぶって身構えたとき、
「おい、そこで何をしているんだ?」
と言う声がして、二人の男はどこかへ逃げてしまった。
「大丈夫か? 最近、ガラの悪いのがいるから……」
「あれぇ? 西山さーん、どうしたんですかぁ?」
美奈が少し呂律(ろれつ)の回らない口調で言う。どうやら西山さんというのは、この店のDJなどをやっていて、私たちの様子がおかしかったので、見に来てくれたようなのだ。
「美奈ちゃん、大丈夫?」
「うん。でも、私なんて、もうどうなってもいいのぉ」
美奈は笑いながら、涙を浮かべていた。