☆☆木陰でシンと☆☆
携帯のベルが鳴る。
着信を見ると、シンからだった。
「ちょっと出てこられない? バイクで近くに来ているんだ」
時計は十一時半。
一階で親たちはもう寝ているだろう。
キッチンの横についているドアから出れば、気づかれずに済む。
それに今なら、眠くなったので、ちょっと気晴らしの散歩と言えば、そう怪しまれないだろう。
歩いて五分の最寄り駅前に行くとシンがバイクにもたれ掛かっていた。
ヘルメットをしているので、誰も城所シンとは気づかないだろう。
「車じゃなく、バイクなんだ」
「まだいい車乗れる程じゃないしね。バイクあると便利だし。例えば、こんな時とか」
シンはそう言って、笑った。
バイクを押しながらシンと並んで、歩く。
駅前は遊歩道となった並木が続いている。木の陰のベンチに二人で腰を下ろす。
「シンって、本当に人気ものなんだね。結構学校でも、言われちゃって」
「今頃、人気ものって気づいたのかよ。おせーよ。で、わたしの彼氏、かっこいいでしょって自慢してみた?」
「そんなこと言うわけないじゃない。彼氏じゃないし。ジュンの友達だから一緒に過ごしてくれただけだし」
「道ですれ違っただけでも、付き合っているって言いふらす女もいるよ」
「だって事実じゃないし」
「じゃあ、付き合っちゃおうよ。もうそういうことになっているみたいだから。事実が後から追いかけるっていうのも面白いじゃないの。予言みたいで」
シンを好きになりかけているのかもしれない。
しばらく逢っていない美菜の顔が浮かぶ。
でも、こんなかっこいい子が側にいたら、それが曖昧になっていくのも分かるような気がする。
「わたし、付き合っている子がいるの。美菜。ジュンの友達の」
「美菜って、ミーナのこと?」
「そう」
「じゃあ、マリカ。僕がここまできたお礼ぐらいしてよ」
お礼なんて言われると思っていなかったので、どうしていいのか分からない。
お礼ってどうしたらいいんだろう。
うつむいていた顔をあげると、ふいにシンからキスをされた。
一瞬だったけれど、頬を大きな両手で包むようにして唇が重なった。
美菜とはキスしたことあるけれど、男の子とは初めて。
「僕、美菜ちゃんに会うことがあったら、謝んなきゃいけないかな」
シンの目は笑っている。
一瞬、とろけそうな気分になる。
美菜が好き。でも、美菜とは違う力強いキス。
写真を撮られたのは単なる過ちだった。
でも、今のキスとそしてシンに惹かれる気持ちも嘘じゃない。
「じゃあ、送るよ。なんか、俺。君のこと、いっつも送っている気がするよね」
「家の近所だから、人目につくといけないから、いいよ」
「駄目だよ。夜中だよ。人目につくのが気になるなら、近くまで行ったら、後ろから付いていくよ。で、玄関に入るまで見届ける。悪い奴に、捕まっちゃうかもしれないから心配だからね」
シンはそう言うと、角を曲がったあたりから、わたしの歩く七十メートルくらい後ろからバイクを押しながら付いてきてくれた。
そういえば、こうして「守られている」気分って、初めてだ。
美菜は大胆なところもあるけれど、どちらかといえば、私がお守り役となる。
シンだと、こうしてぬくぬくと、大切にされている気分を味わえる。それも、悪くはない。