「ね、サナエちゃん。こっちでしゃべろうよ。レオは玲菜に首ったけなんだよ。少し二人だけにさせてあげてくれないかな」
と駿が囁《ささや》く。
同級生の女の子たちが「駿さんってカッコいい」と言っていたのを聞いて、今まで「ちょっと女グセ悪そうで、私は嫌だな」と言っていた。しかし、近くで見ると、駿は騒がれるだけある。
玲菜先輩は少し私の方を心配そうに見た。ここまできて玲菜先輩の邪魔をしたくない。私は駿に促されるまま、店の奥にあるボックスのソファに移った。
「なにか飲む?」
「え、何があるか分からないから……」
じゃあ、僕が選んであげるよ、と言ったかと思うと、目の前に茶色っぽいミルク色のグラスが置かれた。飲んでみるとコーヒー牛乳みたいに甘い。
「おいしい」
「カルアミルクだよ。やっと笑ってくれたね。僕といてもつまらないのかと心配したよ」
「いえいえ、そんなめっそうもない」
「え、『めっそうもない』だって! サナエちゃん、面白いね」
恥ずかしくって、喉《のど》が渇く。思わず、グラスを飲み干してしまった。駿の顔が目の前にある。
「君って、可愛いよ」
ドキンとする。心臓がバクバクしている。駿みたいな男の子にそう言われて、ぼうっとならない子なんかいない。気がつくと、駿の手が私の肩に回っている。アゴに手を添えると、駿の顔が近づいてくる。キスされそう……え、どうしよう。その時、後ろから大きな声がした。
「駿! 何しているのよ。私のイトコだって言っているでしょ。この女ったらし」
玲菜先輩は私の手をつかんで店から連れ出した。
「駄目だよ。あんな女癖の悪い男にひっかかっちゃ」
「すみません」
だって、私、初めて可愛いって言われて……喉元まででかかった言葉がでてこない。
玲菜先輩の部屋に戻ってくると、私は急に酔いがまわったように、ベッドにうつぶせた。
「サナエ、あんな男が好きだったの? キスしたかったの?」
ちょっとムッとしたように玲菜先輩は言う。違う。ちょっとぼうっとしたけれど、好きだったんじゃない。初めて巻いた髪で、可愛いって言われて、ちょっとはしゃぎすぎてしまっただけ。
「違います」
それだけ、やっと言った。
「ごめん」
そういって玲菜先輩が私の髪を撫でる。駿の腕よりもはるかに柔らかい感触がする。
その時唇が玲菜先輩の唇でふさがれた。唇から、首すじに先輩の唇がはう。
「あんな男にサナエが食べられちゃうんじゃないかと思って、カッとしちゃってごめん。腕、痛かったでしょ」
一瞬体が硬くなったが、次第に力が抜けてくる。先輩の指が首すじから、腕の辺りをさする。もう一度唇がふさがれた。私は、ただなされるがままにしているだけだ。
「サナエ。その不器用なところがすごく可愛くって好きよ。ね、もしかして、ファーストキスだった?」
「……はい……」
駿に対する感情とは違う。玲菜先輩は私の憧れだった。その先輩が今、すごく暖かい感じで近づいてくる。