誘惑のフラッシュ|香月ユウ

カテゴリ: 香月ユウ, 作品一覧 
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誘惑のフラッシュ/香月ユウ

誘惑のフラッシュ/香月ユウ

ひとり暮らしの私は大学4年生。就職活動はうまくいかないし、最近彼氏とも別れたばかり。すっかり自信を失っていると、「モデルになってもらえない?」渋谷でスカウトされた。声をかけてきたのはモデル事務所の女性マネージャー・渡辺さん。美人でオシャレな渡辺さんに惹かれ、私はモデルとして事務所に登録、生まれて初めて撮影現場に行くことに。撮影当日、渡された衣裳はメイド服とセーラー服。エッチなポーズばかり要求され、疲労と緊張のあまり私は貧血を起こしてしまう。ふと気づくと、スタジオには渡辺さんとふたりきりで……。女の子なのに彼女の存在が気になりだしちゃうドキドキのガールズラブ☆ストーリー。
抄録

「カオルちゃん、大丈夫?」
 女の人の声で気が付いた。しばらく眠っていたらしい。渡辺さんがそばにいて、私はさっきの楽屋の中で毛布の上に寝かされていた。モデルの子やスタッフの人たちは誰もいなくなっていて、賑やかだった撮影中とはうって変わって静寂が漂っている。
 私はまだ、メイドのワンピースと白いエプロンを身に付けたままだった。カメラの前に立たされて、いろいろなポーズをしたり、スカートを自分でたくし上げたりして、たくさんの写真を撮られたのは、すべて夢だったような気さえする。
「ちょっと貧血を起こしたみたいね。疲れたでしょう? 車で来ているから、送っていくわ」
 私の服は全部、最初に衣装が入っていた袋の中にまとめられていた。私はのろのろと起きあがると、丈の短いワンピースを脱いで、自分の服に着替えた。
「カオルちゃん、肌きれいよね」
 ふたりきりの楽屋でいつの間にか渡辺さんに見つめられていて、思わずドキッとした。

「今日はごめんなさい。ご迷惑をおかけしてしまって」
 車の中で私は渡辺さんに謝った。初仕事でこんなことになるなんて、本当に申し訳なかった。昨夜、睡眠不足だったのがよくなかったのかもしれない。
「いいのよ。でも、よく頑張ったわね」
 幸いにも私が倒れたのは、ほぼ撮影が終わってからだった。結局、もう一人の女の子はスタジオに現れなかった。
「ルーズな子は困るのよ。携帯にも連絡がつかなくて。もう彼女にはやめてもらうわ」
 私の知らないその子は、現場に平気で遅れて来たり、直前にキャンセルをしたりするので、手を焼いていたのだという。
「その代わりカオルちゃんは頑張ってね」
 そんなこと言われても、私なんか……。
「この近くなんで、そこの交差点の手前でいいです」
「お疲れさま」
 渡辺さんは車を止めた。一瞬目が合ったと思うと、次の瞬間にやわらかな唇で私の唇はふさがれていた。あまりにも突然のことで、声も出なかった。甘い香りが鼻腔《びこう》をくすぐる。
「カオルちゃんは可愛いから、この世界でもやっていけるわよ」
 そんなの嘘だ。みんなに言っているに違いない。
「失礼します」
 私は助手席から降りて、早足で歩き出した。彼女の唇の感触だけがいつまでも残っていて、胸が苦しくなった。

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著者プロフィール

香月 ユウ(こうづき ゆう)

フリーライターとして、ガイドブックや女性誌、単行本などで幅広いジャンルの原稿を執筆。趣味はダンス、カラオケ、散歩、旅行。恋愛に関してはオクテでロマンチスト。甘いモノも大好きですが、甘い恋の物語もたくさん綴っていきたいです。

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