夕日が沈むのを三人でながめて、あたりはすっかり闇につつまれ、おもに沙夜と由果のあいだで交わされるおしゃべりもとぎれたころ、ふーっとため息をつきながら
「あのさ」とタクミがきりだした。「沙夜ちゃん。今日、俺ら最後の夜なんだ」
沙夜はなにかを察したらしく、すくっと立ち上がるとワンピースについた砂をはらい、背をむけて歩きだした。
「あんな言いかた、しなくても」
由果が小さくつぶやくと、タクミは何もいわずに由果の手をぎゅっとにぎった。
会話もあまりなくそそくさと夕食を済ませてホテルの部屋に戻ると、タクミはこれ以上我慢できないというように由果に抱きついてきた。
「待って」由果はあまりの勢いに圧倒されつつ、なんとか口をひらいた。「ちょっと待って」
タクミはなにもいわずに由果をベッドの上に押し倒し、由果のTシャツをまくりあげた。くちびるをふさがれて声も出せないまま、気づいたら由果はすっかり裸にされていて、シーツの上にひろがった髪が、肘《ひじ》をついたタクミの腕にひっぱられてちぎれそうだ。「ごめん」
手をどけながら、タクミは自分も服を脱ぎはじめた。荒い息をしながら由果の手をとって、自分のからだに触らせる。筋肉のついたきれいなおなか。日焼けした大きな背中。だけど、ストライプのトランクスの中身に触れたとき、由果はぎょっとして手を離してしまった。
こ、これはなに?
恐る恐る手を元の場所に戻す。その上から、タクミは強く押し付けるように自分の手をあてがった。離そうとしても、押さえつけられていて無理だ。
そうしているうちにタクミのもう片方の手が、由果の胸に伸びて、くちびるが首に、胸に、おへそに、どんどん下におりていく。
自分の心臓の音だけが、大音量で響いている。
待って、待って、待って。
声にならない声は、タクミが由果の脚を強引に広げてうえにかぶさってきたとき、
痛っ……!
引き裂くような、小さな悲鳴に変わった。
全身の力をふり絞って、気づいたら由果はタクミを突き飛ばしていた。
「やめてっ!」
ふたりとも肩で息をしながら、まるで天敵同士のようにベッドの上にむきあっている。生まれたままの姿で、波の音以外、なにもきこえない部屋のなかで。
ついに沈黙を破って、タクミが口をひらいた。
「……なんでだよ」
怒っているのか、タクミの顔は真っ赤だ。
「お前がラブホはいやだ、とか俺の部屋はアニキが来るとかいろいろ言うから。だからわざわざこんなとこまで来たんだろっ」といわれて、頭を殴られたような気がした。
いくらなんでもそんないい方、ひどすぎる。
「……いや」
由果にいえたのはそれだけだった。シーツをぎゅっとからだに巻きつける。
「こんなのちがう」
「……なにがちがうんだよ」
「あたし。タクミのこと好きだと思ってたけど」
「好きだと思ってた、けど、なんだよ?」
「わからない」
ひとりでに涙がこぼれていた。
「もうわかんない」
c|桐原かれん
由果は21歳、タクミは初めてのボーイフレンド。2カ月前に生まれて初めてキスをした。遅すぎる? 3泊4日の旅行にタクミに誘われた時、「ほんとの目的は……アレだよね」と思った。いやじゃなかったし興味津々、でも実はこわかった。そして沖縄へ向かう飛行機の中で由果はロングヘアの美少女・沙夜に声をかけられ……運命が変わる。
抄録
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著者プロフィール
桐原 かれん(きりはら かれん)
1965~
東京都生まれ。出版社勤務・雑誌ライターを経て現在に至る。バレエとヨガと掃除が趣味。