いつか、逢える|伊藤ユイ

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いつか、逢える by 伊藤ユイ

ある日、未希《みき》に起きた偶然が疎遠になっていた真尋《まひろ》との再会を引き寄せる。親友以上恋人未満の微妙な関係はどうなってしまうの? 二人は二年間の空白を超えることができるのか? それとも。伝えたいけど、伝えられない。はっきりと知りたいのに聞けない。オンナ同士ゆえに話はややこしくなるばかり。迷いと後悔は積もり、残された時間だけが削られていく。いま、答えの出せない悩みを持っている人に読んでもらいたい物語。
抄録

「黙って帰ったら、本当に許さないからね。わかった?」真尋はびくっとしてから、大きく頷いた。私は真尋に念を押してからバスルームへ向かう。そして一人鏡を見て笑ってしまった。
 こんな怖い顔をして、真尋に言ったのだ。そりゃびくっとするわ。
 お風呂は考え事をするのに最適だ。目を閉じて、両手で顔をそっと覆うと違う世界にいるような感覚になる。できれば照明も落として。真尋の姿が浮かぶ。悲しそうな顔をして、背中を向けてしまう。あっという間に涙が溢れてくる。真尋が好き。私はどうしたら背中を向けられずに済むのか。これ以上、愛し合うには体の繋がりがないとだめなのだろうか。真尋とのキスを想像しようとするけれど、できない。だめだ。真尋に英語を教える男性が顔を近付けていく。そんなの嫌だ。私は自分勝手でわがまま。そしてずるい女。

 結局お風呂では、頭の中はきれいに片付けられなかった。のぼせるほど長い時間かけたのに。リビングのソファでは、模様替えで疲れたのか、真尋が眠っている。少し寝かせてあげよう。そっと冷蔵庫を開け、ミネラルウォーターを取り出す。本当はビールにしようか迷ったけど、悪酔いしそうなのでやめておこう。真尋は起きる気配がない。毛布をかけてあげよう。そっと。そっと。すぐ横に腰を下ろして柔らかな髪を撫でる。そう、そっと。真尋のくちびるが少し動いた気がする。起こしちゃうかな。でももう少し見つめていたい。撫でていたい。起きたら怒られるだろうか。「未希」かすかだけど、聞こえた。心が震えた。顔が熱いのはお風呂上がりのせいじゃない。
 私たちは、お互いを必要としている。そうだよね。
 真尋の長い睫毛。柔らかそうなくちびるは。触れたら、どんな感じなんだろう。どんなキスを返してくるのだろう。ああ、もう少し離れないと、だめ。私の心が慌てて警告してくる。でも真尋から目が離せない。顔が火照っているのがわかる。急ブレーキをかけようとする自分がいる。
 その時、いきなり真尋が寝返りを打って伸びをした。反射的に、私はその場を離れることができた。「うーん」目を覚ましたようだ。何にも知らないでのんきなもんだ。
「お待たせ。お風呂どうぞ」ペットボトルの水をゴクリと飲む。
 人の気も知らずに真尋は素直に返事をして、お風呂の身支度を始めている。

 真尋の入浴中、髪を乾かしながらずっと考えていた。あのまま真尋が寝返りを打たなければ、私は、もしかしたら、いやきっと・・・。混乱する。


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著者プロフィール

伊藤 ユイ(いとう ゆい)

東京都民。普段は会社員。犬好き。家好き。飛行機キライ。高いとこキライ。最近パンダ好き。
最近、子供の頃小説家になりたかったことを急に思い出してしまいました。。。どうせなら夢のある人生がいいですよね。
著者に『真由と潤』『ゆっくり☆たくさん☆して』


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